【特別インタビュー】嚴島神社宮大工棟梁 三舩慎悟さん

文化財を守り、未来へつなぐ宮大工のしごと

建造物の多くが国宝や重要文化財に指定されている嚴島神社。その歴史や先人たちの思いを、途絶えさせることなく後世につないでいく宮大工という仕事があります。あまり目にする機会のない宮大工さんたち。

「どうして宮大工になったの?」
「嚴島神社の宮大工さんってどんな仕事をしているの?」

その仕事ぶりをインスタグラムで広く発信している、棟梁の三舩慎悟(みふねしんご)さんに話を聞きました。

嚴島神社宮大工棟梁 三舩慎悟(みふねしんご)さん

宮大工になったきっかけ

—宮大工になろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

僕の出身は福岡。親父が、九州全域の神社仏閣で仕事をする宮大工の棟梁だったんです。親父の姿を見て、中学生のときにすでに「宮大工になりたい」って言っていましたね。

『ものづくり』が身近にあって、それが好きでこの道に入りました。高校で建築とか専門の勉強をしたわけではなく、普通科を卒業して、まっさらな状態で親父の弟子になりました。

—宮大工の先輩としてのお父さんはどんな方でしたか。

家では寡黙な人なんだけど、現場に行くと生き生きとしていて、その姿がかっこいいなと思っていました。

神楽殿の建設中に、台風が直撃したことがあったんです。「絶対に倒したらいけん。」って、突風の中で2時間も支えて守り抜いた親父を見て、やっぱりすごい人だなと。建物に対する親父の思いを感じましたね。

僕は親父を超えられないなとも思います。今の時代にはない技法で、一つひとつ手作りで大工仕事をしてきた世代ですからね。心から尊敬しています。

聖徳太子の時代から続く工法

工務所には、文化財にしか使われなくなった珍しい道具もそろう。

—宮大工とはどういう仕事なのでしょうか。

神社や仏閣の建築や修繕が主な仕事ですね。釘などの金具を使わず、木材をはめ合わせて組み上げる、昔ながらの『木組み』という工法で行うのが特徴です。機械を使わず、のみやかんなで木材を加工(手刻み)します。聖徳太子が中国から取り入れた『さしがね』を今も使い、『尺』で寸法を測るスタイル。古い建物を扱う宮大工ならではですね。

ほぼすべてを手作業で行う。鉋(かんな)をかけることで木目を整え、撥水効果を持たせる。

—嚴島神社の宮大工さんたちは、普段どんなことをされているんですか。

回廊や屋根の工事といった大掛かりなものは、年単位で長期的に計画を立ててやっています。他にも社殿の足元や平舞台の修理をしたり、神主さんが使う神具や、木製の備品を作ったりしています。

管絃祭や玉取祭といった神事の手伝いも、僕たちの仕事のひとつですね。管絃祭で使う管絃船を組み立てて準備し、必要に応じて修繕することもあります。当日は船に何かあったときに備えて、僕たちも後ろに乗っているんですよ。

後世に繋いでいく仕事への思い

嚴島神社を守る宮大工の広畑三郎さん、(棟梁)三舩慎悟さん、日野幹稔さん

 —宮大工の仕事のどんなところに、おもしろさややりがいを感じますか。 

僕たちは宮大工の中でも、文化財を修理して守っていく大工です。歴史を途絶えさせることなく、後世につないでいく仕事をしているということがひとつのやりがいですね。たくさんの人の手を経て、令和の時代まで守られてきた歴史への思いは、やはり格別なものがあります。

文化財というのは、元のやり方を変えてはいけないんです。建物を外してみて、昔の宮大工はこういうやり方をしていたんだと分かるじゃないですか。そのままを再現するのが僕たちの仕事です。

また、ある部分が壊れていたからといって、木を新しいものに総取り換えすることもできません。修繕が必要な部分にだけ、手を加えます。

新しい方法を取り入れることができないというのは難しいように思えますが、変えられないことにどうやってか対応していく、それが楽しいんですよ。

歴史を紐解き、昔の大工さんの仕事を再現する、そこが文化財の醍醐味だと思っています。

特に年配の方から、日本の文化を守ることへの感謝の言葉をいただくこともあります。参拝者と接することの多い、嚴島神社だからこそのうれしいエピソードです。

広島の若者に広島の大切なものを守っていってほしい

—インスタグラムで、毎日のように製作物や道具、作業の様子などを発信されていますね。

年々、宮大工になる若い人が減っているのが現状です。聞いたことはあっても、どんな仕事なのか分からない人も多いと思うんです。そこで日々の仕事を発信していこうと始めました。

日本の伝統技術に感動した外国人がメッセージをくれることもあります。フランス人の大工さんが、自分の国にも取り入れたいとかね。外国人をそこまで魅了する伝統技術が、当たり前のようにすぐそばにあるんですよ。

三舩さんインスタグラム https://www.instagram.com/sima5rira_miyada19/

—学生の皆さんへのメッセージをお願いします。

文化財である建物には、何か新しい試みをすることはできません。でも僕たちは建物を開いてその構造を見ることができます。例えば技術の継承のために、模型をどんどん作っていく、世界に向けて発信していく、そんな新しい楽しい挑戦をしていくことができるのではないかと思っています。世界で活躍する棟梁が生まれるかもしれませんね。

文化財の構造が分かりやすいように縮尺を合わせた模型

広島の大切なものは広島の若い人たちが守っていくのが本来の形だと思っているんです。

これからはどんどん学校にも出向いて、宮大工の仕事を伝えていくつもりです。

今度、大阪の学生さんがインターンシップで嚴島神社に来てくれることになりました。ものづくりに興味がある学生さんには、このようにインターンシップでぜひ仕事を経験してもらいたいですね。

僕たちと一緒に歴史をつないでいきましょう。

プロフィール
三舩慎悟(みふねしんご)
昭和46年生まれ 52歳/福岡県出身
高校卒業後、福岡の社寺建築会社に就職、結婚。
その後、奈良に移住し東大寺などの工事に携わる。
34歳のとき、嚴島神社棟梁に就任。
宮島に住む。家族は妻と二男二女。
趣味はジョギング。また子どもたちが陸上競技選手のため、陸上競技観戦も楽しむ。

嚴島神社
住所:廿日市市宮島町1-1
電話番号:0829-44-2020(午前9時から午後4時)
ホームページ:https://www.itsukushimajinja.jp/